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横浜地方裁判所 昭和36年(む)426号 判決

被疑者 崔相萵

決  定

(被疑者氏名略)

右被疑者に対する公務執行妨害傷害被疑事件につき、昭和三六年九月九日横浜地方裁判所裁判官谷口茂昭のなした勾留期間延長の裁判に対し、弁護人三野研太郎から準抗告の申立があつたので、当裁判所は次のとおり決定する。

主文

被疑者に対する公務執行妨害傷害被疑事件につき、昭和三六年九月九日横浜地方裁判所裁判官のなした勾留期間を昭和三六年九月一〇日より七日間延長するとの裁判は、これを取消す。

被疑者に対する右被疑事件につき、横浜地方検察庁検察官のなした勾留期間を昭和三六年九月一〇日より一〇日間延長するとの請求は、これを却下する。

理由

本件準抗告申立の趣旨および理由は、弁護人三野研太郎の準抗告申立書のとおりであるから、ここにこれを引用する。

よつて本件を審案するに、被疑者に対する公務執行妨害傷害被疑事件につき、横浜地方検察庁検察官市川照己より刑事訴訟法第六〇条第一項第二号第三号に該当する事由があるとして横浜地方裁判所に勾留請求がなされ、昭和三六年九月一日同裁判所裁判官田中昌弘が同条第二号、第三号に該当するとして被疑者を勾留する旨の裁判をなし、更に同検察官より「被疑者は酩酊のため本件犯行について記憶がない旨申述べているが、被害者の供述によると被疑者が泥酔していた事情は認められないので、現在被疑者と当初喧嘩をした学生風の男二名の所在及び本件犯行の目撃者、被疑者の家族等について飲酒量及び酩酊の程度について捜査中のところこれが未了」であるとの事由により勾留期間を昭和三六年九月一〇日より一〇日間延長するとの請求がなされ、同年九月九日同裁判所裁判官谷口茂昭が参考人取調未了の事由により勾留期間を同年九月一〇日より七日間延長する旨の裁判をなしたことは、本件記録により明らかである。

そこで本件勾留延長につき刑事訴訟法第二〇八条第二項にいわゆる「やむを得ない事由」があるか否かにつき検討する。

本件記録によれば、被疑者が酩酊のため本件犯行につき記憶がないと主張するけれども、被害者である受田春夫の検察官並びに司法警察員に対する各供述調書、神保貞夫の司法警察員に対する供述調書、巴正則の司法巡査に対する供述調書、渡辺さやかの検察官並びに司法警察員に対する各供述調書、川出日出三の検察官並びに司法警察員に対する各供述調書によれば、被疑者の本件犯行当時の飲酒量、酩酊の程度、犯行の模様等につき充分捜査を遂げていることが明らかであり、勾留期間一〇日間を経過したうえ更に勾留期間を延長してまで捜査すべき「やむを得ない事由」があるものとは認められない。そしてたとえ検察官主張のように捜査を更になすべきものとしても、本件事案の性質、態様に照らし、その程度の捜査は一〇日間の勾留期間以内に遂げるべきを相当とする。

よつて前記勾留期間延長請求を刑事訴訟法第二〇八条第二項に該当する事由があるとして被疑者に対し勾留期間を延長した原裁判は失当であり、本件準抗告の申立は理由があるから、同法第四三二条、第四二六条第二項により原裁判を取消し、更に前記勾留期間延長請求を却下することとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 福島昇 松沢二郎 篠原昭雄)

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